能力開発方法の勘違い
能力開発の方法は、主に①経験/OJT、②薫陶、③OFF-JT/自己啓発で、そのウエイトは①70%、②20%、③10%と言われます。概ね納得です。ただし、これは形態としての分け方なので、中身を考えないと「勘違い」することになります。中身は①自分中心で学ぶか、②他者から学ぶかで分かれる。①は経験/自己啓発、②は経験/OJT/薫陶/OFF-JT(経験は両方)。そして大きく差が出るのが②の「他者から学ぶ」です。この他者とは誰かということ。言い換えると「誰から学ぶか」。教えてくれる人には様々な要件があります。尊敬できる人、仕事ができる人、専門性が高い人、教え方が上手な人、話しやすい人・・・などなど。事業の状況、年齢/勤続、本人の性格、職場環境などによって変わってきます。しかし共通して言えるのは「コツを教えてくれるとありがたい」ということ。特に困っている時。人間的に高尚な訓話もいいですが、本質的かつ具体的なアドバイスは本当に助かります。そんな、先生、上司、先輩、講師に出会いたいものです。
「コツ」では「本質的かつ具体的」という点がとても重要。逆に「芯から外れた抽象的な」アドバイスをもらうと混乱するだけです。以前、何かの本で読みました。何度練習しても跳び箱を跳べない子どもに、優れた指導者がコツを教える場面。一旦跳ぶのを中断し、両足を開いて真ん中に両腕を置き、体重を支える姿勢をとる。その感覚をつかむと、驚くほど簡単に跳び箱を跳べるようになるそうです。これに対して「もっと助走を速く」とか「もっと踏切を強く」とか一見それらしいことを、自分の経験則やイメージだけで教えても全く効果はありません。ますます変なクセがつく。最近テレビで似たような話を聞きました。北京冬季五輪のスキージャンプで金・銀メダルを取った小林陵侑選手。彼を指導する葛西紀明さんは、スリップという悪いクセを見つけました。踏切瞬間のスベリです。そこで、陸上でインラインスケートをはいて「滑りながらジャンプする」練習をさせた。これにより感覚(コツ)をつかみ、スリップのクセは修正できたそうです。これも「本質的かつ具体的」という指導例です。
職場の上司や先輩はプロの教育者ではありません。部下・後輩の育成は仕事ですが、「教えること」そのものが本業ではない。教えられる側も「誰に教えてもらうか」をよく考えなければなりません。もし「本質的かつ具体的」に教えてくれる人を見つけたら、自分からアプローチしたい。素直に「教えてください」とお願いするのがいいでしょう。喜んで教えてくれると思います。相手がプロの場合(OFF-JT)はお金がかかるかもしれません。価値あるコツを指導してくれるなら、お金を払いましょう。結局、先達が何年も何十年もかけて会得したコツを、自力で編み出すことはできません。誰かに教えてもらう。「能力開発方法の勘違い」にならないよう、「誰」を意識したいですね。