キャズムを越える
以前ロジャース曲線についてお話しました。少し復習します。イノベーション採用者のタイプ別度数分布です。採用の早い順から、①イノベーター=革新的採用者(2.5%)、②アーリー・アダプター=初期少数採用者(13.5%)、③アーリー・マジョリティ=初期多数採用者(34%)、④レイト・マジョリティ=後期多数採用者(34%)、⑤ラガード=採用遅滞者(16%)の5つのタイプに分類されます。①+②=16%が普及の壁で、これを超えると普及率が急激に上昇すると言われています。
この壁のことを「キャズム(溝)」と言ったりします。これを提唱しているのが「キャズムVer.2」の著者ジェフリー・ムーアです(クリステンセンじゃないんですね)。私自身はこの本を読んでいませんが、書評で解説されていたので取り上げたいと思います。ロジャース曲線の中で最も重要な関門が、②アーリー・アダプターと③アーリー・マジョリティの境目、つまり16%の壁=キャズム、だと言います。なぜか?ここで顧客のリスク選好が変わるからです。②はリスクを好む→③はリスクを嫌う。真逆なんです。だからこの溝を越えるのが難しい。
例えば電気自動車。②の人は「誰も乗ってないから、人と差を付けられる」と考えますが、③の人は「誰も乗ってないから、危険かもしれないし、不便だ」と考えます。そうするとマーケティング(訴求方法)も変わりますね。②に対しては、「あなただけが先に進んでる。クールです!」、③に対しては、「みんな乗ってますよ。そろそろどうです?」といった感じかな。このあたりをわかっていないと、ずっと②のコミュニケーションを続け、全く③の顧客には刺さらず市場は動かない。経験則的に普及が16%を超えると、自分の領域(生活圏など)で目にする機会が増えてきます。「お隣はクーラー入れたらしいわよ」で、家庭用エアコンが普及した例ですね。
このキャズム理論、新商品開発だけではなく、一般の仕事にも応用できます。よくあるチャットボット(AIによるやりとり)もそうです。まず16%のユーザーの活用を意識したい。そこまではあの手この手の力技かもしれません。キャズムあたりで、訴求メッセージを一工夫。「みなさん使ってます!」という感じで。特に日本人はこれに弱い。有名な船から海に避難させるジョークで、アメリカ人には「ヒーローですよ!」、ドイツ人には「規則ですよ!」、で日本人には「みんなもう飛び込んでますよ!」が一番効くと。ユーザーサービスを普及させるためには知っておきたい知識ですね。