交渉力
私は司馬遼太郎の歴史小説が大好きですが、そのお気に入りの中に「峠」という作品があります。映画化もされ、本年7月1日に公開予定です。本日はこの作品にも関連する「交渉力」について考えてみたいと思います。
交渉には必ず交渉相手がいるので、まずは相手(利害関係者)を知ること。そして交渉の場数を踏むこと。その上で次の4つが重要です。①利益、②オプション、③BATNA、④情熱。絶対にキレないことが大前提。交渉の目的は、正論を通すことではありません。お互いに納得できる合意点を見つけること。相手の面子を潰して恨みを買っては最悪。なんとかWin-Winを目指したいものです。
さて4つのポイント。利益→お互いの利益を明確にする。オプション→選択肢を用意する。BATNA→交渉が決裂した場合に備える。情熱→本気で確かな信頼を得る。準備(①②③)をしっかりして、熱意を込める(④)。交渉現場での駆け引きやテクニックはその次です。
ここで幕末維新から、交渉の象徴的な事例を見てみましょう。まず「江戸城無血開城」。ご存知西郷隆盛と勝海舟の交渉です。ここで最大のポイントは、お互いに相手(人物・考え方)をよく知っていたこと。そして勝は徳川慶喜の恭順合意を事前準備し(利益明確化)、無血開城・武器弾薬猶予の提示案を具体化し(だめなら江戸は火の海)、江戸の民衆を避難させる万が一の備え(漁船手配等:BATNA)をしました。そして命を懸けた。それに西郷も応えた。幕府や藩という枠を超えた国家構想に最後は共鳴しました。お互いすごい胆力です。
一方うまくいかなかった例は、戊辰北越戦争の起点となった小千谷談判。冒頭の「峠」のモデルになっています。交渉人は長岡藩家老の河井継之助と、新政府軍軍監の岩村精一郎。河井は「武装中立」を主張し、岩井は「敵か味方か」を迫った。結果、わずか30分で交渉は決裂し、泥沼の戦いに突入します。なぜ歩み寄れなかったのか? まずお互い初対面で、人物を全く知らなかった。そして岩村は新政府軍の代表として適任ではなかった(時代の流れに乗って出世した、修羅場経験のない24歳)。また河井の武装中立案もあいまいで、新政府軍に利益が見えず、オプションもなかった。そして悲劇的な結末となりました。
海外には交渉現場での具体的テクニックもあります。High ball、Good and Bad COPなど(詳細は割愛)。しかし交渉のポイントはやはり「準備」と「信頼」です。後悔のない準備と、最低限の信頼形成。仕事でも、交渉に自信がつくと仲間から頼りにされ、相手からも一目置かれます。建設的な交渉を心がけたいですね。