「部下はほめて育てる」という勘違い
部下をほめて育てるということ自体は間違いではありません。しかし、それが最善だと思い込むことは大きな勘違いです。では「部下は、ほめたり、しかったり、バランスよく育てる」というのはどうでしょう? 結局、ほめるのもしかるのもどちらも必要だし、一方でどちらも育成という点では「根っこ」ではありません。よく「プラスのストロークを打ち込め」と言いますが、これも本質ではありません。方法論としてはありですが、当然十分条件ではない。では本質とは何か。それは「信頼」です。これが人間的な面白さであり、難しさ。信頼関係ができていない状況でしかったら、それは「怒られた」ということで、受け手は教育的な意味合いを感じません。逆に信頼関係ができていないのにほめても、「私のことなど何もわかっていないくせに」と思われてしまう。その場の評価としてはうれしいかもしれませんが、そこまでです。何度も繰り返すと単なるお世辞だと思われてしまう。信頼関係ができていれば、大きな梃子が働きます。ほめれば強みが伸び、しかれば弱みが改善されます。
これは一見あたりまえのようですが、意外にわかっていません。表面的なフィードバックをして、ますます関係が冷却する場合もある。多くは、上司は「信頼関係ができている」と思っていても、部下はそう感じていない、というケースです。なぜか? 上司は仕事にフォーカスして、人物にフォーカスしていないからです。個人情報、ワークライフバランス、QOL、ダイバーシティなど、プライバシーと仕事を区別する風潮が強くなっている現在では、人物を知ることは難しいでしょう。しかし、だからこそ知ろうとする努力が必要なのです。もちろん無理矢理尋問したり、裏で非開示情報を調査するのはNGです。しかし本人が進んで開示する情報をキャッチすることは非常に重要です。そこが人間の複雑で興味深い点。上司は部下の「人物」を驚くほど知りません。趣味は何か?やっていたスポーツは?子どもの頃どこで過ごしたか?兄弟姉妹はいるか?好きな食べ物は?推しは?・・・。
じゃあ飲み会に誘えばいいのかな? いやですよ。上司にいきなり誘われても困るし、気味が悪い。お勧めなのは1on1ミーティング。要するに面談ですが、「面談」という表現は重いし、評価に直結する嫌な印象です。「1on1ミーティング」と表現するだけで、日常の報連相の延長として受け入れやすい。海外だとインテルやGoogle、日本だとYahooなどの企業が有名です。もちろん個人情報の引き出しや、単なる雑談が目的ではありません。あくまで業務上のミーティングです。だから仕事、担当業務、職場環境などがテーマとなる。しかし、単なる業務報告、課題進捗の確認になってはいけません。それならチームミーティングの場で一気にやったほうがよっぽど効率的。1on1では個人に徹底してフォーカスします。だから話題は、やりがい、困っていること、心身状態、成長課題、キャリアビジョンなど、個別の内容になります。最初はぎこちないですが、こうったことを定期的に繰り返すと、心が開け、さらに日常業務との相乗効果で、信頼関係ができあがっていきます。冒頭に戻りますが、ほめるスタイルか、しかるスタイルか、などと考える前に信頼関係構築に努めましょう。そのために部下の「人物」を知りましょう。チーム全体も活性化しますよ。