「SWOTは役に立たない」という勘違い
戦略策定で、SWOT分析を重視する人と、軽視する人は真っ二つに分かれます。大手企業に勤めている方や、コンサルファームのコンサルタントは軽視する傾向がある印象です。一方、公的機関や中小企業診断士は、SWOT分析を重視して中小企業の相談に対応しているように感じます。こう書くと、「SWOTは基本中の基本だから、進んでいる企業ではあたりまえすぎでもう使わない」と思われてしまいそうです。確かにそんな扱いになっている場合があります。大企業が次年度の事業戦略を策定するとき、よく本社の経営管理部が各部門に環境分析(SWOT)を依頼します。その際、形式的にカタチだけをこなして、帳尻を合わせていることも多い。体裁を整えているだけです。では中小企業は真剣に取り組んでいるかというと、そうとも言えません。国や自治体の補助金申請や金融機関に提出する経営計画のために、これも単なるお作法になっているケースが多いように感じます。
これはとてももったいないことです。なぜか? 「戦略のフレームワーク」と言われるモノが多くありますが、そのほとんどは切り口です。例えば、3C、QCD、5Forces、PEST・・・など。この切り口に従って現状を整理する。顧客・自社・競合を書き出しても、それ自体は戦略ではありません。その中でSWOTは、おそらく唯一戦略を導入できるフレームです。自社[S強み/W弱み]と環境[O機会/T脅威]を掛け合わせるクロスSWOT。2×2の4通りの戦略が導かれる。ただし、実際に使う戦略は、①S強み×O機会、②W弱みの克服、の2パターンがほとんどです。強みに競争優位性があって、機会に成長性があると大変有望な戦略になります。また「弱みにとらわれず、強みを生かせ」という理屈を信じて、弱みを放置している場合も多い。実際は、強みをさらに伸ばすより、弱みを改善する方が簡単だし効果も圧倒的に大きいです。つまりSWOTに真剣に取り組むと、効果的な戦略が導出できるのです。
そして、本気でSWOT分析をすると、かなりのフレームが包含されます。顧客はO(T)、自社はSとW、競合はT(O)なので、3CはSWOTに入る。PESTもOとT、QCDもSとWに入る。5Forces、4M、7S、VRIOなども全てSWOTに包含することが可能です。そして戦略はシンプルに、①S強み×O機会、②W弱みの克服。要するに本気で取り組むかどうかです。結論だけではなく、考える過程でも大きな気づきを得ることができるし、戦略策定能力も鍛えられる。SWOT分析は大変役に立つのです。それなのに、「今さらSWOTやっても何も解決しないよ」と勘違いして、軽視を続ける。繰り返しますが、とてももったいないです。一度関係者で集まって本気の議論をし、生きたSWOTを完成させてみてください。そのプロセスも結論も、大きな成果につながると確信します。