成長と分配
岸田首相が「成長と分配の好循環」を掲げています。そんな中、大手上場企業の業績が急回復しています(21年9月中間決算)。世界経済の持ち直し、円安などの要因が大きいですが、感染症対策から続くコスト削減努力も奏功しているようです。トヨタ自動車(過去最高益)を筆頭に製造業。資源高の追い風を受けた大手商社。物流増加の海運。ITに軸足を移した日立製作所も過去最高益を更新しました。一方で、感染症の影響が長引いているJR各社、JAL、ANAなどは軒並み赤字です。
上場企業の利益(合計)は倍増し、7割以上が増益でした。しかし中小企業の回復は遅れています。大手企業の仕入れ先関連は、カスケード効果で回復傾向だと推察しますが、観光や飲食などのサービス業は厳しい経営が続いています。岸田首相は、分配の一環として企業に賃上げを促す意向ですが、なかなか難しいでしょう。賃上げとは定期昇給ではなく、ベースアップ(ベア)のことです。賃金テーブルそのものを書き換えて水準を上げる。大手でも何年もベアをしていない企業が多い。固定費に苦しんでいる中小企業では、なおさら厳しいでしょう。賃上げよりも雇用維持が先決問題です。
「成長と分配の好循環」はそのとおりです。しかし内容をよく考える必要がある。一般的に成長によって得た利益は、税金、配当、賃金、投資などに分配されます。税金は政府によって、さらに世の中に分配される。この好循環を回転させるにはエンジンが必要です。その動力になるのは投資だと思います。流出にとまらずリターンを得る。拡大再生産。この回転力が経済を活性化して、賃上げも可能とする。積極投資に中小企業も巻き込むと、さらに回転はダイナミックになります。大手企業は、利益を抱え込まずに積極投資をぜひ検討してほしいです。世のため人のため、そして自分のために。政府は賃上げを叫ぶだけではなく、企業が投資をしやすい環境を整備する必要があります。当然わかっていると思いますので、期待したいです。