「キリンを作った男~マーケティングの天才前田仁の生涯」を読んで
5月21日、プレジデント社から発売されたビジネス書・ノンフィクションです。著者はジャーナリストの永井隆氏。キリンビールの数々のヒット商品を開発した天才マーケッターの人物伝です。主人公の前田さんとは面識があったので、感想を書きたいと思います。
前田さんが自ら開発したのは、ハートランド、一番搾り、淡麗。前田さんの指導の下にスタッフが開発したのが、淡麗グリーンラベル、氷結、のごごし。実に6つの大ヒットブランドを世に出しています。しかもロングヒット。「1000に3つの成功」と言われるこの世界で、これだけのヒットを飛ばした実力は奇跡的です。しかし決してまぐれ当たりではなく、そこには前田さんらしい成功法則があった。私なりにこの本を読み解くと、そのポイントは3つだと思います。まず①「お客様を最優先する」。業界の常識や会社の事情は二の次。すべては、お客様のニーズに応え、お客様にとって価値を提供するかが意思決定の判断軸です。教科書的にはそのとおりなのですが、それを断行できるかは現実的には難しい。上司に言われたとおりに、一時的な売上増のために、メンツをつぶさないために・・・等々、実際にはそんな理由が先行して新商品を発売するケースも多いものです。しかし前田さんの顧客志向は徹底していました。まさに信念です。次に②「自分の嗅覚を信じる」。これはなかなか真似できません。まずは嗅覚。①に関連しますが、とにかくお客様をよく観ること、そしてその背後にあるメカニズムを考えること。そして、成功体験を積み重ねることにより、この嗅覚を信じる力が乗数的に上がります。そして③「人を育てる」。自ら開発したと言っても一人でできるわけではありません。多くの協力者の存在が不可欠。同じチーム、上司、部下、関係部署、外部機関・・・。前田さんはスタッフィングも抜群に上手だった。そのスタッフたちは前田さんと一緒に働くことで確実に成長しています。任せるところは任せ、責任をとり、決して成果を独り占めにしない。頑張った部下は徹底して守り、絶対にはしごを外さない。ポイントは以上の3つですが、他にも多くの学びがありました。
前田さんのような人はそうそういないでしょう。敵も多かったようです。しかし自分を見失わずにお客様本位を貫いた。そして世の中にビールの楽しさ、おいしさ、奥深さをプレゼントした。70歳でお亡くなりになりましたが、本当に惜しい人材です。時代はますます混迷を極めますが、こんな時こそ新しい価値を創造する生きのいいマーケッターが現われて、私たち消費者を楽しませてほしい、そう心から思いました。多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい良書です。