「戦略は選択と集中」という勘違い
「戦略」とは「選ぶ」ことです。目標達成に向けた複数の選択肢の中から一つを選ぶ。「戦略的○○」と言う場合は、思い切って他の選択肢を捨てる(特化する、あえて偏る)ことを指しています。山登りに例えると、頂上への複数ルートから一つを選択する。選んだルートに必要な装備・訓練・データに集中する。従って「戦略は選択と集中」というのは正しいです。ここでの勘違いとは「選択肢を増やさない」ということです。一度選んだからには、その戦略に特化して集中すべき。ブレずにやり切る。短期的には正しいのですが、中期的には勘違いです。常に現在の戦略を評価するとともに、新たな選択肢を考える、増やす。さらには「一つに集中せず、分散させて試す、種を蒔く」ことが必要になってくる。
ビジネススクールで学習すると、よく「戦略は分散と集中を繰り返す」と教えられます。中長期で見ると確かにそのとおり。まず市場をセグメントして、ニッチな領域に特化して参入する。そこにリソースを集中させてビジネスの基盤を作ります。その後の成長戦略で量的拡大を狙いますが、徐々に市場が飽和する、提供する商品・サービスも成熟する。社会環境が大きく変化する場合もあります。そこで、あるいはその前に分散に入る。商品・サービスを増やす、市場(ターゲット)を拡大する、事業を多角化する。「分散」という言葉の響きが悪いですが、要するに「将来の選択肢を増やす」わけです。その後複数戦略の優劣がつくので、徐々に投資をフォーカスし、撤退も検討する。再び集中フェーズです。ずっと集中し続けるのは無理。広げて絞る、広げて絞る、の繰り返しです。広げないと絞れない。
結局、「戦略は、短期的には選択と集中、中期的には集中と分散の繰り返し」ということです。財務的にそうせざるを得ない場合もあります。資金があるうちは分散して、余裕がなくなると資産を圧縮して本業に特化する。昨今の経済混乱で、事業売却を進めて筋肉質になり、生き残りを図っている企業グループも増えています。一方で先行きが極めて不透明なので、今のうちから選択肢を増やす(分散する)ことも重要です。攻めでも、守りでも、分散と集中は両方大切。実際に、多くの企業が中期的に繰り返しています。広げて絞る、広げて絞る、この生命的な運動が、会社を長く存続させるのだと思います。