交渉の要諦
米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席が、オンライン形式で始めて会談しました。米中間で不足の事態が起きないよう、対話を継続していくことで一致したとのこと。台湾、新疆ウイグル、貿易などの問題も協議しましたが、進展はありませんでした。感染症対策や気候変動などの世界的な課題に対しても意見交換しましたが、共同声明は発表されていません。結局対立構造は変わらず、緊張緩和の「具体的道筋」は見えないままです。
今回の会談は、交渉というよりは、両国の距離を少しでも縮めるきっかけ作りという印象です。まあ影響力も大きいし内容もオープンなので、そうなりますね。米国側がトップ会談を持ちかけ、バイデン大統領は、衝突回避の「ガードレールを構築する」ことが最大の目的でした。習氏側もその点は受け入れ、会談の成果を国内で強調しています。今回はガチガチの交渉ではありませんが、少し交渉について考えてみます。
交渉に必要な4要素は、①お互いの利益の明確化、②オプションの用意、③BATNA(交渉決裂に対する準備・対応)、④情熱。①②③をしっかり準備した上で、本番では情熱を注いで交渉します。駆け引きなどのテクニックは、これらを補足する要素にすぎません。幕末で有名な交渉例は二つ。成功は、勝海舟の西郷隆盛との江戸城無血開城交渉。事前に山岡鉄舟を派遣し、下準備をしっかりして交渉に臨んでいます。BATNAも想定し、江戸が火の海になることに備え、民衆避難のための漁船も準備しています。理想的な交渉ですね。一方失敗例は、長岡藩河井継之助と官軍との交渉。下準備もなく中立維持(長岡藩)を主張するだけで、全く歩み寄りになりませんでした。官軍に敵か味方かを迫られ、すぐに交渉決裂(司馬遼太郎の「峠」が映画化されます)。
大きな交渉ではなくても、私たちの日常業務でも交渉事が多いです。小さな頼み事や営業活動など、毎日が交渉の連続とも言えます。ここでも①②③の準備、そして情熱が大事。そして、その前提として信頼構築が非常に重要です。初対面の人との交渉は少ないもの。面識のある人との話し合いであれば、下手なテクニックを使うよりも、信頼をベースに、基本となる4つの要諦をしっかり押さえたいですね。