ゆずれない決断
日本製鉄がトヨタ自動車を特許侵害で訴えましたね。とても驚きました。メーカーが得意先を提訴するというのは、よほどのことです。喧嘩です。しかも両社とも日本を代表する大手企業なので波紋も大きい。私もメーカー出身ですが、競争相手ではなく納品先を訴えた記憶はありません。日本製鉄には「ゆずれない決断」があったのでしょう。
具体的には、日本製鉄が、ハイブリッド車や電気自動車に使われる「無方向性電磁鋼板」の特許侵害で、トヨタ自動車と中国の宝山鋼鉄を提訴しました。それぞれ約200億円の損害賠償を求めています。さらにトヨタの電動車の製造・販売差し止めの仮処分も申請しました。知財侵害を許さないという断固とした姿勢です。高級鋼の知的財産は日本製鉄の収益源で、放置すれば競争力を失うという危機感があるようです。
日鉄は、トヨタに多額の鋼材を販売しており、鋼材開発でも長年協力関係を築いてきました。今回の提訴について、「トヨタは重要な取引先。丁寧に説明したが、納得を得られなかった」と苦渋の決断だったことを強調しています。これに対してトヨタは、「材料メーカー同士で協議すべき事案。大変遺憾だ」と、日鉄と宝山の紛争に巻き込まれたという認識を示しています。「特許侵害の有無を判断できる立場ではなかった」と、今後の裁判で主張するようです。善意の第三者だということですかね?
日本製鉄の「苦渋の決断」という表現が、難しい状況を表しています。長年良好な関係を維持してきた優良得意先と泥沼の喧嘩をする。そこまでして守らなければならないのが、知的財産権です。これを放置すれば、原材料メーカーとしての存在意義にかかわるということでしょう。日鉄の毅然としたスタンスを評価したいと思います。もっと上手くやれなかったのか、という内外の意見も含めて、当事者の「苦渋の決断」です。一方のトヨタは「下請けの責任」のように、現段階では聞こえてしまいます(私には)。これからの東京地裁でのやりとりに注目したいです。今回の件では、「判断」と「決断」の違いを感じました。経営者は、「決断」という重い意思決定をしなければなりません。ゆずれない決断があるのですね。