群衆心理

私はNHKの「100分de名著」という番組が好きで毎回見ています。9月のテーマは、ル・ボンの「群衆心理」でした。ル・ボンはフランスの心理学者で、その著書「群衆心理」は、社会心理学の名著とされています。人びとが無個性化した「群衆」と化す過程を考察します。なぜ群衆は合理性のない極論を受け入れるのか? 指導者やメディアはいかに群衆心理を煽動するのか? 現在の混迷する時代に、いろいろと考えさせられて興味深かったです。

現代人は、インターネットやSNSの隆盛で、自分で判断・行動する主体性を喪失し、極論から極論へと行き来することが多くなったと言われています。1900年前後に活動したル・ボンは、群衆の行動を分析して、いち早く社会に警鐘を鳴らしています。そのポイントを上げます。人は、群衆の中にいるとき「暗示を受けやすく物事を軽々しく信じる性質」を与えられる。論理ではなく「イメージ」によってのみ物事を考える群衆は、力強い「標語」や「スローガン」によって「暗示」を受け、その「暗示」が群衆の中で「感染」する。これが群衆心理のメカニズムです。政治家やメディアはこれを利用して、「断言→反復→感染」という手法を使います。ル・ボンの主張はやや極端ですが、納得できる部分も多いです。

現在のポピュリズムもこれに近いと感じました。物事を極端に単純化して、敵味方に二分し、一方を徹底的に攻撃する。米国のトランプ氏や、フランスの右派政党もそうでした。今少し落ち着いていますが、群衆は「単純化=わかりやすさ→極論」という文脈が好きそうです。歴史的にはやはりフランス。市民革命→ロベスピエールの恐怖政治→ナポレオンの帝政、といった混乱が象徴的です。日本史でもわかりやすい人は人気があった。豊臣秀吉とか。

この構造は、仕事でも言えます。複雑な戦略より、わかりやすいメッセージの方が支持される。組織が一枚岩になって動きます。浸透も速い。しかし極論になるリスクもあります。「お客様本位」、「安全第一」はそのとおりですが、効率やコストを度外視して暴走するリスクもある。比べる軸が違うので、同列で議論すべきではないですね。群衆の暴走を回避するために、ル・ボンは教育の重要性を説いています。「今、私たちは何をすべきか?」を冷静に考えたい、そう思いました。

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