因果関係
文部科学省の調査で、「小学校時代に読書量が多いほど、中学生や高校生になって授業が楽しく思える割合が高い」という結果が、新聞記事になっていました。どう考えてもそうでしょう。読書が嫌いな人よりも、好きな人のほうが勉強に興味を持つに違いない。勉強は、まず文字情報からですからね。調査結果のとおりなのですが、記事の表現には違和感があります。「AとBには相関関係がある」のは事実ですが、「○○ほど、△△」という表現だと誤解を招きます。「A→B」という因果関係に見えてしまう。正しくは「A⇔B」。もしかしたら、「B→A」かもしれない。「元々授業を楽しく思っているから、読書量が多い」のかもしれない。小学校の授業が楽しい→興味をもって読書をする→中学・高校になっても授業が楽しい。「C→A→B」です。
少しややこしくなりましたが、このように世の中には、因果がごちゃごちゃになっているケースが多いものです。その根拠が調査結果やデータだと、あまり考えずに信じてしまう。いくつか例をあげます。企業の内部監査部門向けに、公認内部監査人(CIA)という資格があります。「監査人資格を持っている人は、趣味で乗馬をしている人が多い」という記事をネットで見ました。合わせて、「監査人資格取得者の年収は、他資格と比較して高収入」という事実(データ)も添付されていた。「監査人資格→高収入」という文脈です。これも逆ですね。「大企業→高収入→監査人資格」です。公認内部監査人は、米国本部の国際資格で、受験料が驚くほど高額です。従って、大手企業が受験指示をして、費用のほとんどを会社負担にするケースが多い。監査人資格をとることで、収入が上がったわけではありません。
もう一つ。よく思考力の研修で出る例です。「アイスクリームが売れると、殺人事件が増える」と言われていた。確かに数値の相関係数は高い。しかし実際には、この二つの事実に因果関係はありません。気温が高い→アイスが売れる。気温が高い→殺人事件が増える。原因は気温(暑さ)です。それぞれの結果を強引に因果にしているケースで、実際は「C→A/C→B」とう構造です。隠れている気温という要素を発見できるかどうかがカギ。
このように、因果が誤解されていることが世の中には多いです。私たちは、クリティカルシンキング(建設的な批判精神)で、本質をしっかり見極めたいですね。