帰納法と演繹法

私は「世界の哲学者に人生相談」(Eテレ)という番組をよく見ていました。ある回のテーマが、フランシスコ・ベーコン(同名の画家と間違えないように)でした。ベーコンは1600年前後のイギリスの哲学者。「イドラ」という考え方で有名です。イドラとは、思い込み、偏見、先入観などのこと。イドラの原因は、人間であることそのもの、個人の育ち方・経験、社会生活でのうわさ、権威ある人の影響、などと言われています。ネットやSNSなどの現在のデジタル社会では、このイドラがより激しくなっているかもしれません。ちなみに、これを利用して発展させると、以前お話したフレーミング効果に行き着きます。

さて、ベーコンです。彼はこのイドラを認識した上で、実験、観察、経験で得られる事例を集めて、法則を発見すべしと言っています。これが帰納法です。事実→法則。この逆(法則→事実)が演繹法で、三段論法が有名です。ベーコンは演繹法に対し、帰納法を強く提唱しました。すでにある法則にゆだねるのではなく、実験や観察を重視した。その時気をつけなければならないのが、偏見や先入観、つまりイドラというわけです。この演繹法と帰納法は、思考の方法論として、「論理的思考力」の研修や書籍などでは必ず最初に出てきます。ただ、私はあまりピンとこなかった。理屈としてはわかるけど、日常生活や仕事に結び付かなかった。例示が少なかったからかもしれません。演繹法はわかりやすいです。地球は自転している→明日も太陽は東から昇る。万有引力がある→りんごは木から落ちる。こんな感じ。理詰めで説得する場合は有効です。

ではベーコンがおす帰納法を考えてみましょう。辞書には「類似の事例をもとにして、一般的法則や原理を導き出す推論法のこと」と書いてあります。例:カラスAは黒い。カラスBも黒い。C、D・・・。だから世の中のカラスは黒い。演繹法では結論が自動的に出ますが、帰納法は想像力が必要なのです。想像力を鍛えるためには、豊富な知識と多様な経験が必要。さらに実験や観察もいる。「努力しろ」というわけです。教科書に載ってる既存の法則を使っているだけでは、新しい発見は生まれない。これからの不透明な時代では、帰納法的思考がますます大切になっていきそうですね。ただしイドラには気をつけて。

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