理性と感性
昨年、著作家の山口周さんのスピーチを聞く機会がありました。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるか?』(光文社新書)でビジネス書準大賞(2018年)を受賞した方で、私も著作の多くを読んでいます。鋭い時代考察をベースに、ビジネスのヒントがあふれています。スピーチは「経営におけるアートとサイエンス」についてのお話でした。要旨を強引にまとめると、「これからの時代、理性から感性への流れが加速する」ということ。「真善美」という哲学でよく使う言葉がありますが、山口氏は経営でもこの要素が必須だと言います。真善美とは人間の普遍的な価値で、認識上の真、倫理上の善、審美上の美、のことです。対比で言うと、真偽、善悪、美醜で、そのポジティブサイドの真善美。
ビジネスをこの真善美を切り口に重要要素を分類すると、大きく理性(サイエンス)と感性(アート)に分かれます。まず真。真偽判断のよりどころになるのは、従来はデータ・事実・論理でした。今は徐々に、時代感・直観が重視されつつある。次に善。善悪判断の根拠は、慣習・法律が王道でしたが、現在では道徳・倫理が重視されてきている。そして美。美醜判断は調査・事例の影響が大だったのですが、今や感性や審美眼が注目されつつある。総合すると、ビジネスの世界は、理性(サイエンス)重視から感性(アート)重視へ大きく流れている、ということです。
この流れをさらに展開すると、こうなります。問題解決→問題発見、データ→ストーリー、説得→共感。従来は、「事実に基づいた正解を理解する」という文脈が尊重された。これからは「ロマンを感じる物語に共感する」という文脈に惹かれる。そんな感じでしょうか。前者は過剰であり、AIに代替されていく。後者は希少であり、その価値は上昇する。この考えを裏付けるように、コンサルティング会社によるデザイン会社の買収、シリコンバレーでのリベラルアーツ復権などの動きが活発化しており、一方で、米国有数のビジネススクール(MBA)への志願者数は減少の一途をたどっています。結論、感性を磨け!
わかるけど、今さらどうすりゃいいの? まず教養全般に好奇心をもつことが大切だと思います。仕事については、「問題発見」がますます重要です。問題を与えられるのは学生まで。これからは自分で問題を発見し、課題を設定する。そのためには「ビジョン=あるべき姿」が非常に重要。そして、感性を磨いて共感を得るために何をするか? それを考えなければなりませんね。