一期一会
一期一会。よく聞く言葉ですが、どんな意味でしょう? 「人との貴重な出会いを大切に」、そんな答えが多そうですね。この言葉は茶道の心得を表したものとして有名で、「この茶会は一生にその日ただ一度」といった意味だそうです(私自身は茶道に詳しくはありません)。「人との出会い」というより、「今この機会」が主題のように感じます。つまり一期一会は「一生に一度だけの機会」と解釈できます。初めて会う人だけでなく、むしろいつも会っている人と共有する時・場を大事にしたい。今を大切にしようという言葉です。
当然ですが、人との接点はとても重要です。「またね」と言って別れたけど、後から振り返るとあれ以来全く会う機会がないということもあるでしょう。仕事仲間、友人、知人とのあたりまえのような時間も一期一会。大変貴重な時間と場所です。と言っても四六時中これを意識し続けるのは難しい。まずは仕事での機会を大事にしたいですね。
さて一期一会という言葉を最初に使ったのは井伊直弼だそうです。千利休じゃないんですね(?)。井伊直弼は近江彦根藩第15代藩主で、幕府大老。ご存知のとおり桜田門外の変で暗殺されました。直弼は14男で側室の子。15年間部屋住みし、茶道で大成しました。著書「茶湯一会集」の中で一期一会を表現しています。その後わけあって藩主である兄の養子となり、なんと家督を継いでしまいます。14男が藩主! 元々能力の高い人だったので、藩政改革に成功し、幕府中枢として江戸城へ。幕末激動の流れに乗ってついに大老に就任します。
直弼は、活発化する幕府批判への対処として「安政の大獄」を断行。そして「桜田門外の変」で暗殺されました。満44歳。昨日のNHK大河ドラマ「晴天を衝け」がまさに「桜田門外の変」の回でした。幕末ドラマでは、直弼は悪役的に描写されることが多いですね。
苛烈に大獄を断行し、尊王攘夷派に命を狙われます。身が危険ということで、帰国や警備増強が提案されましたが、直弼は受け入れず、いつもどおりを通したと言います。1860年3月下旬、もう春ですが、朝から季節外れの雪模様。それでもいつものように登城しました。護衛の侍たちは刀に雪よけの袋を被せていたそうです(刀が役に立たないじゃん!)。一期一会を初めて表現した井伊直弼の人生は、正に波乱万丈でした。私たちも、「一期一会」を大切にしたいですね。