プロフェッショナル
私はサラ・オレインが好きで、たまに妻とコンサートに行きます(最近はコロナで無理ですが)。サラ・オレインは日本人を母にもつオーストラリア人で、歌手・バイオリニスト。絶対音感を持つといわれ、音域が非常に広い。東京大学教養学部に留学し、シドニー大学を優秀な成績で卒業。日本で歌手としてデビューし、NHKを中心に活躍しています。
さて、全国ツアーのファイナルステージ(東京公演)でのこと。歌唱、演奏、エンターテイメントともに大変すばらしいものでした。しかし、印象に残ったのは、コンサート中に起きたアクシデント。途中に20分程度の幕間があるのですが、その時に締め出された人がいたのでしょう。後半1曲目終了後、後方(扉のあたり?)から大きな怒鳴り声が聞こえてきました。「困った人がいるな」と私も頭にきましたが、場内は緊張感につつまれます。その時、サラ・オレインはMC(トーク)中でしたが、ファンは「ラストツアーが台無しか」と張りつめました。こういう時、固まってしまったり、逆に過剰反応して客いじりを始めたりと、グダグダになってしまうケースが多いのではないでしょうか(私はそうなりそう)。しかーし、サラ・オレイン、微動だにせず、まったく動揺した気配を見せませんでした。そして難しいMCを見事にやりとげた。私は瞬間的に「プロだな」と思ったのです。そのあとも引きずらず、いや一層パワフルでドラマティックにステージを盛り上げました。お客様に楽しんでいただきたい、今このときを最高の時間に、という思いが伝わりました。
仕事でもアクシデントはつきものだし、「起こるもの」です。その覚悟を持って対処する。「想定外の出来事に対し、その場でとっさに機転を利かす」のではなく、「想定内のこととして受けとめる」。これで余裕が生まれます。そんな人は器が大きく感じますね。やはり大事なのは、準備・訓練、そして最後は胆力でしょうか。簡単ではないです。覚悟や胆力を意識して鍛えるのは難しい。私たちが努力できるのは、やはり準備と訓練ではないでしょうか。「ぶっつけ本番で、ハプニングも要領よくかわしたぜ」という武勇伝は、“たまたま”です。プロは自分の使命・役割に責任を持つ。本当に素晴らしいコンサートでした。